Archi Summit 2010 STOCKHOLM


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先月ストックホルムで行われたg86によるARCHI SUMMIT 2010 "Legacy vs Android"のレポートです。
上の地図は、このサミットの成果物であり第二ステージによって抽出された議論の焦点をプロットし作成された「Navigation chart of discussion : 議論の航海図」です。

参加国: Japan, Mexico, Sweden, Australia, Italy, Spain



1st stage -presentation-
第一ステージとして、いま現在各国でなされている建築論や都市論などについて6カ国のプレゼンター達が順次スライドレクチャーを行いました。

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Sweden

Anna Teglund, Henrik Bejmar (Sweden)


(fig:アスプルンド市立図書館及びコンペティション1等案)
Competition
アスプルンドの市立図書館はレガシーといえるもの。増築コンペは中止になった。しかし市民はコンペの勝利までのいきさつを知らず、市民をふくめた議論(democratic process)もなかった。議論が十分ではない。
・ランドマークといって新しく建てられる高層ビル(これも議論が不透明なまま計画が進んでいる)だが、ランドマークは必ずしも高層であればいいわけではない。アスプルンドの図書館のように高層でなくてもランドマークになっているものはすでにある。
・ノーマン・フォスターが勝ったスルッセンプロジェクトのように、進行の経過が不透明なものが多い。
Green Capital 2010
サステイナブルシティなど、スウェーデンでは都市開発において先進的な環境取り組みが行われており、EUが今年から開始したEuropean Green Capitalに第一回受賞都市として選ばれた。
satellithe city
スウェーデンの郊外には移民達が多く住み、サテライトシティとして市街地からは森林(green bridge)により隔たれている。
 サテライト同士はハイウェイによってつながっているがそれ以外の(商業的、文化的な)コネクションはない。
 このサテライトをどう良くしていくか、中心市街地との関係を良好にするにはどうしたらいいかが長年問題になっている。
FUTURE PERFECT
ストックホルムで今年5月から始まったプロジェクト。
 毎回レクチャーを行い、各キーワードに沿って議論を展開して行く予定のもの。
 (LINES vs CYCLES, PRIVATE vs PUBLIC, FOSSIL vs SUN, GLOBAL vs LOCAL, US vs NATURE, ECONOMY vs EVERYTHING, EGO vs ARCHITECTURE, MAXI vs MEGA, DESIGN vs DISCIPLANIARITY, STOCKHOLM vs STOCKHOLM, LIFESTYLE vs MORPHOLOGY, SWEDEN vs WORLD)

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Mexico

Alfredo Alvarez (Mexico)


(fig:プレゼンより)

THE MAYAN HOUSE
・伝統的な家の工法が素材がブロックやコンクリートに変わったけれど続いていている。都市より地方に多い。
でもこうした工法がもっと大きなスケールで地方だけでなく使われるといいと思う。
CLOLONIZATION 
・ヨーロッパ文化とのミックスによりドラマティックな都市計画の変化がみてとれる。
FINE ARTS PALACE-LATINOAMERICAN TOWER
・現代建築と伝統建築の対立(グローバリゼーションの影響が始まっている)
MEXICAN COLORS
・ルイス・バラガンがメキシコのアイデンティティー(色彩など)を建築にもたらした。
CENTRAL BIBLIOTEC、UNAM
・メキシコ大学の中の建物は現代建築でありながらメキシコの古代を表現しようとするなどの葛藤がみられる。
The Problems
・建築家に建てさせるのは高いので自分たちで家を建てている人達がいまだにいて、都市計画の面で問題を抱えている。
Tradition and Identity vs Global economy and Globalization
・どうやってこの葛藤のなかで生きて行くか。

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Australia

Andrew Lee (Australia)


(fig:メルボルンのインフィル型開発)
Water
・貯水が深刻な問題になっている。オフィスビルの屋上を緑化し、都市農業によって水を再利用する提案などもだされている。
Fire
・火災も建築にとって深刻な問題になっている。
人口密度
メルボルンでは人口が増えて来ている。しかし人口高密度は建物を高層にしないでも解決できるのではないか。
・都市の中心部に建て込むのではなく交通網(Transport corridor)に沿って建物を建てていき、交通網の間をを埋めていくインフィル型開発が提案されている。 
 このインフィル型開発によると、1000ユニットの住宅につき3億ドル以上の経済的救済になる。

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Italy (+Swiss)

Guido Brandi (Italy)

Swiss

(fig:ATHでクリスチャン・ケレツにより行われた実験)
(留学経験をもとにイタリアに対し"So close so different"であるスイスについてもプレゼンした。)
・アカデミックな視点でスイスは語られる。
 スイスにある有名な建築の学校はチューリッヒローザンヌ、メンドリジオにある3つなどがある。
 スイスの建築学校では実際にどうつくるか、ディティールはどうなっているかなどの実務的な教育がなされている。
 ローザンヌのEPFLではSANAAが新しいメディアセンターをつくったがこうして資金を新しい建築をつくるのに投入できるのもスイスだからだ。学校の教育現場でも新しい構造技術がお金をかけて実験され、たくわえられてきた知識も豊富である。

Italy

ルネサンス時代の輝かしい歴史が残る街に対しこれからの建築がどういった提案をしていくか。
workshop in Prato
ルネッサンス建築である議会場のリノベーションを提案するワークショップを行った。
 すでに空間のなかにある幾何学を研究し、現代的に解釈しなおしてリノベーションを試みた。
 また、議会場の外の広場に電光掲示板を設計し、政治の透明性をあたえる。(イタリアの問題のひとつは政治の不透明性)
 イタリアの若い建築家たちは新しいものをつくりたいがまず古くからあるものを理解しなくてはならない。

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Spain(+Chili)

Matias Truzillo Grez (Spain)

Chili

(fig:チリ大地震 2010.2)
チリ大地震マグニチュード8.8)によるダメージについて
・建築は建築家の視点からだけでなく、経済、政治、社会からどうあるべきかつねに問われる。
・14枚のパネルだけでできる住宅の提案。
・2030年に世界の人口の75%がシティに住むという予測がされている。これは建築家にとっても大きな問題である。

Spain

(fig:スペインの建築雑誌)
Construction Crisis
・スペインは20年ほど前から成長しはじめ、それにともなって現代建築が沢山建設され続けている。
・世界中の人達がスペインの人気建築雑誌(AV, El Croquis, 2G, a+tなど)を通して現代建築を知り、見に来る。
Modern Architects
・Madrid international convention center(m+t)
・sbioclimatic Towers(Abalos & Herrero)
・Guerrero House (Alberto Campo Baeza)
・Hemeroscopium House (Ensamble studio)
・建築を想像したとき、例えばCampo Baezaなどの建築家の建築のイメージが思い浮かぶが、それは建築家の視点として建築をみているだけであり、社会からの視点が常に問われていることを忘れてはならない(建築家のための建築になってはならない)

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Japan

Sakane Minaho (g86, Japan)


(fig:郊外のショッピングセンター)
Tokyo process
・東京という街のプロセス、メタボリズムの都市構造について。
・デザインのプロセス、アルゴリズムデザインなど、設計手法についての議論が盛んである。
・建築はどこにあるの?展(Where is Architecture?)プロセスを公開する展覧会
展覧会に訪れた人々がFlicker上の展覧会公式ページで会場で撮った写真を掲載するという、作品に空間と情報の両方で出会う展覧会が行われた。
Informatization
・g86はQRコードミュージアムによって、情報と空間の架橋を試みた。
Suburbanization
・Shopping Center、日本でも郊外の風景が商業空間によって蝕まれている。
つくばエクスプレス、インフラによるスプロール現象
Legacy vs Android
・今回のサミットのために用意した"Legacy"と"Android"という二つのキーワードについて、いくつかの提案。
・Tokyo construction process (Legacy) vs architecture process(Android)
・physical space(Legacy) vs information space(Android)
・Regionality(Legacy) vs Shopping Center(Android)
・Power naturally existing vs Power human produce themselves

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2nd stage -discussion-
2nd stageでは世界地図を広げながら各国のレクチャーの内容について吟味しつつ鍵となっていきそうなテクストをプロットしていき、「Navigation chart of discussion:議論の航海図」を作成しました。

(fig:第2ステージでの地図作成の様子)

以下はその地図をつくるにあたり行われたブレインストーミングの一部です。

コンペティションが不透明である、それがコンペ案中止につながっているのではないか(Anna Teglund, Sweden)
・ランドマーク、bignessは必要ではない(Henrik Bejmar, Sweden)
・郊外問題は世界中で起きており、理由はそれぞれちがうがどれもスプロール現象について議論している。スプロール化はインフラの拡大により助長され、インフラは経済や政治と結びついている。(Andrew Lee, Australia)
・メキシコのプレゼンでアイデンティティに触れていたが、スウェーデンでは現代建築について、伝統的なスタイルやスウェーデンアイデンティティについてはあまり議論されない。スウェーデンは保守的でありながらも海外をみている。(Anna Teglund, Sweden)
・イタリアのプロポーション幾何学の知識があったが、そういうものはむしろスイスにうつっていき、イタリアではそういう教育よりファッショナブルな現代建築をみている。(Guido Brandi, Italy)
・イタリアは国土が左右上下にのびており地形によってへだてられた場所に差異をもたらし、常に多様性を問題にしている。(Guido Brandi, Italy)
・建築家がひきおこした問題か、政治経済がひきおこした問題か いずれにしろ建築家は建築で解決する手しかないはず(Guido Brandi, Italy)
・各国からあつまって世界について集まって議論しているはずが(地図上で)アフリカ大陸にポストイットが一枚も貼られていない(Alfredo Albarez, Mexico)
・街と空間。ヴァチャルスペースとフィジカルスペースの関係の可能性。QRコードミュージアムは面白いと思う。(Matias Truzillo Grez, Spain)
Google社について。世界中のデータを集めようとしている。データのアーカイブ、どうやってアクセスするか、アクセスのデザイン、建築にできることは?(Andrew Lee, Australia)
iphoneなどインフラストラクチャーから派生するデザインの可能性(Andrew Lee, Australia)
・情報社会に対してもっとクリティカルになるべきである、それがグローバルとローカルのバランスを構築する(Minaho Sakane, Japan)
産業革命のときのように次のマテリアルの時代へうつっていくのか(Alfredo Albarez, Mexico)
・設計するツールがもたらすグローバリゼーション、ローカリゼーション(Minaho Sakane, Japan)
・社会、経済、政治、情報のシステムを建築をもって批評する。(Minaho Sakane, Japan)
・2010年に建築家であることにどういう意味があるのか?(Guido Brandi, Italy)



サミットを終えて

2008年3月、東京、銀座ギャラリー58にてg86は「アーキサミット東京春の陣」を行った。
その時は、リレー形式で様々な出演者と議論をするということを延々繰り返し、異なる出演者との対話の最後と初めに重なる部分を作って、最後にもう一度最初の出演者に出てもらい、議論を円環状に閉じることで、次のフリーディスカッションのための平面を作った。
今回は、それぞれの出演者の背負うコンテクストの違いや言語の壁もあったのでビジュアルに平面をデザインしていくことが必要だろうと考え、議論の航海図と題して世界地図上に議論の火種をプロットしていった。

第2ステージで行われた議論は、プレゼンから得られたキーワードをもとにブレインストーミングのように行われた。
この議論の中で繰り返し問われたのは建築が建築でありながら建築をとりまく状況にどう打ち勝つか、ということだったように思う。
建築が操作可能な状況がどこにあるか。"Android"が私たちを蝕み世界をつくり変える前に、私たちにどのような"Legacy"があるのか。

スウェーデンには現代建築がまだ少なく保守的だが、都市はそういった厳しい建築規制のなかでも少しずつ変わりつつある。今年、Green Capital Europe2010に選ばれ、サスティナビリティを評価されたのも、スウェーデンが様々な技術者たちを投入し近年力を入れて新しい都市計画を進めてきた結果だ。これは"Legacy"としての都市構造である。
またグンナール・アスプルンドによるストックホルムの森の墓地は、土地拡張計画や新しい火葬場の設計、埋葬の徹底的なシステムにより生きる墓地としての世界遺産になっており、究極の"Legacy"といえる。
一方で世界中に店舗を展開するIKEAは、スウェーデンから生まれた そもそもIKEAは「フラットパック」といって商品を分解し出来る限り薄く梱包することで消費者自身が簡単に持ち帰るというシステムなど流通、梱包、製造のコストを徹底的に抑えることで一気に展開した。ショッピング施設そのものは青と黄色で塗り分けられた巨大でコマーシャルであり、一気にその土地のアイデンティティを奪う。世界各地で反復複製される生活様式とショッピング施設、まさにIKEAは究極の"Android"。

この"Legacy"と"Android"がもたらす世界の矛盾は、サミットの中で他の国の間にも見ることが出来た。
例えばメキシコは自国の建築に対してアイデンティティを求める一方で、スペインは世界が見つめる現代建築を次々と生み出しメディアで建築を輸出している。ここには建築の地域性と情報化という矛盾した関係がある。
最終的にこの第2ステージで地図上に現れた様々な論点を、地図上で"Legacy"と"Android"という二つのキーワードに置き換えようとしたときに起きた圧縮は強引ではあったが、それぞれが例えば空間と情報のマトリックスにおいて、どう位置づけられるか考えることが出来たという意味では、重要な手法だったと思う。
これから、私たちの世界は想像以上に高速リンクしていく。そこに建築をどう繋ぎ止められるか、つねに頭の中に世界地図を広げ、矛盾に気づき、それを乗り越えて世界に新しいプラットフォームを構築していき設計の手立てとしていきたい。