vol.23 建築家 大成優子


Onari Yuko
1974 東京生まれ 茨城県つくば育ち
1997 東京工業大学工学部建築学科卒業
1997-2002 妹島和世建築設計事務所
2002 大成優子建築設計事務所
2003-2004 中央工学校非常勤講師
2004 武蔵野美術大学非常勤講師
2005-2008 森山邸住人
2008 京都造形芸術大学非常勤講師

2009年度、東工大卒業設計展に際して、発行しましたフリーペーパーのインタビュー記事となります。

「納得するまであきらめない」
聞き手:鎌谷(g86)、丸子勇人、似鳥俊平

「都市と建物の境界が曖昧な教習所」
鎌谷|まず大成さんの卒業設計について教えて下さい。
大成|私は自動車教習所を作りました。教習を受ける人以外には閉じられている都市施設をもっと積極的に使うことで、都市がより面白くなればいいなと思って。敷地は大崎で、すでに自動車教習所があった場所です。教習所って一生に一回くらいは行くかなと。逆に言えば、行ったきり二度と行かない場所でもある。でも地図で見ると割と大きめの街区で見えてくるから、そういうところがまた行ける場所だったらおもしろいんじゃないかなと思ったんです。ここに実在する自動車教習所はすでに2層だったのですが、教習所の隣の同会社の経営するタクシーエリアも取り込んで、新たに立体的に複合させました 。
fig.1卒業設計/ドライビング スクール ビルディング


自動車教習所の練習コースや教習教室はもちろん、車の修理用に板金工場、タクシーの運転手が休憩するところや銭湯も計画しました。車の軌跡が建物内に
出てくるので、結構大きなスケールもつり合うなと考え、テニスコート、25M プール、パチンコ屋さんなどの大きいプログラムも入れました。その他にも、託児所やコンビニとかちょっとしたシアター。あとタワーを作って住宅や見晴台を設置したり。いろいろと入ってます笑。
鎌谷|確かに、教習所のような、人がそう頻繁に利用しないけど都市にいくつもある施設ってありますよね。そこに着目してデザインをしていくというのはすごく興味深いです。従来の教習所では車と人が分断してしまっていますよね。これはそれが入り組んでいる。
大成:そう。だから、車と人間っていうスケールの違いをどうやって複合したらいいかなと考えて、車のスラブと人間のスラブに分けて交互に重ねていきました[fig.3]。
もともとここの敷地は高低差が1層分ある地形だったので、それを利用して、土地の段差がそのまま上に上がっていくように。人と車は直接触れあうわけじゃないんだけど、絶えず見えている状態を作りました。食事しながら、車の練習をしているのが見えたりだとか。
似鳥|一層飛ばしのエレベータのダイナミックな感じも好きです笑。S 字クランクとかも作りましたか?
大成|作った作った。しかもこれはすごい怖い。吹き抜けのところがS 字ですから笑。遊園地よりスリリングかも笑。
丸子|教習所の相手が遊園地笑。
大成|要するに気軽に遊びにこれたらいいなと思って作ったんですよね。私もそうでしたが、学生の時に車をもってなかったので、思いっきりペーパードライバーなわけ。もっと気軽に一日教習とか利用できるといいなと思って。自転車を止めてふらっといろんなところに行けるように、気軽に自動車を止めてふらっと行ける場所にしたかったんです。
鎌谷|それが、車と人の空間の配置の仕方で明快に実現していて、すごく面白い。車と人の階高の変化はありますか?
大成|人のスケールを抑えて、車は大きくして、3mと4m かな。単純にこのまま積んでいきました。そのかわり、タワー部だけは一層の高さを4m として、それが突出して見えてくるようにしました。
fig.2 スケッチ(卒業設計/ドライビング スクール ビルディング)


全く同じ関係性ではなくて、上の階ほどタワーとスラブとでレベルの違いが出てくるので、上へ上がっていく楽しみもあるんじゃないかなと。模型はスラブの高さが違ってくる感じを出したくて、素材とかかなり無茶をしましたね。

「自分で模型を作らない意義」
大成|あと、ここで初めて学んだことがあって、生まれて初めて自分で模型を作らない。それって実はすごく設計者として私は大事だと思うんです。実際に建築を建てるときは自分で図面は書くけど、基本的には工務店とか建ててくれる人達が別にいてそういう人達に、言い方はよくないけど、指示を出すのも仕事かと。それを生まれて初めて体験するのが、卒業設計だったなと思うんです。
手伝ってくれる人が何人かいて、いつ来てもらえるかをスケジュール調整したり、この日にこの人にこれをお願いしようとか指示をしたり、材料はどれだけかかるかを計算したり。とにかくあまり自分は動かないで周りに指示を出すということが生まれて初めてだった。やっぱり苦労もしたけど、それは今後に繋がる、かなり貴重で有意義な体験だったなと思います。

「SMLXL の影響」
鎌谷|大成さんが4年生の頃の東工大の共通意識はありましたか。例えば、みんなが参考にする建築家はいましたか。
大成|私が好きだったのはレムですね。一層飛ばしのエスカレーターとか直接的に影響を受けています笑。だから、真っ白い模型というよりも、OMA のように模型に素材感があるようなものを作りたくて色々工夫をしたことを覚えています。この時期に丁度出版されたのがSMLXL。生まれて初めてあんな分厚い高い本を自分のお金で買って。製図室で枕になったりもしてましたけどね笑。 卒業設計でも、必ず手の届くところに置いて設計をしていました。すごい影響受けていると思います。
丸子|周りの人はどうでしたか?
大成|私たちが2・3年生のころに、安藤忠雄さんの六甲の集合住宅II や、近つ飛鳥博物館がどんどん完成していて、やはり影響は大きかったように思います。カチカチしたコンクリートの固まりみたいなものに、なんだかおおーと感動していたり笑。かと思うと、妹島和世さんの軽やかな建築におおーと感動していたり。私は森の別荘にものすごく衝撃をうけました。妹島事務所に行きたいと思ったのも、この作品の影響が大きいです。
fig.3 模型(卒業設計/ドライビング スクール ビルディング)


「大学院にいついくべきか」
似鳥|大成さんの卒業設計は自身の卒業論文のテーマとは関係がありますか。
大成|正直全然ないです。とにかく自分で楽しいと思えるものを作りたい、という気持ちが一番大きかったので、卒論のテーマには特にこだわらずに考えました。論文で苦しんだのでおそらくその反動かと笑。
鎌谷|それは僕に置き換えても同じことが言えそうです笑。僕たちは今、大学院へ進学し、修士論文に向けてそれぞれのテーマの研究を中心に行っています。大成さんは大学院へは行かずに、妹島事務所へ行かれたそうですが、大学院で学ぶことについてはどう思われますか。
大成|今だったら大学院へ行って研究をしてみたいとも思います。学部を卒業してすぐの時には、特に強い研究願望とかなかったんですけどね笑。大学院にいつ行くのか、ということは大きいように思います。もちろん学部を出てすぐに院に行くという選択もあると思いますが、一度社会に出たその後で院、という選択肢もありかなと。実際、外国ではそういう人も多いそうです。
 私の場合、実際に設計をいくつか経験した事で、建築に関して自分なりの考え方っていうのが、少しずつ見え始めている。自分の興味のあることも色々とあるので、今だったら行くのもいいんだろうなと。一度実務を経験してから、もう一度研究をするというのは建築ではあり得るし、人によってはその方が有意義なこともあるのかなと思います。

「納得するまであきらめない」
丸子|大学を卒業後の、妹島事務所での所員時代で学んだことを教えてください。
大成|たくさんありますが、一番大きかったのは「あきらめないこと」ですね。施工側から、作れないとか駄目だとか色々言われるんだけど、妹島さんはそれで折れることはまずない。作れない理由をしっかり聞いて、それで違う方法を考えたりして何度も交渉しなさいと、よく怒られました。自分でも結構粘っているつもりで、それでも駄目かなと思ったときも、まだ妹島さんは粘ってい
て納得するまで絶対にあきらめない。
似鳥|妹島さんの作品の抽象的で特異な形態が実現する裏には、そういった想像以上の粘り強さがあるのですね。
大成|精神的な強さというのは、本当に大事だと思う。独立してみてますますそう思います。いつも頭の中の仮想妹島さんにはっとさせられる笑。 妹島さんも独立し始めたときは、自分がこうやったら伊東さんは何とおっしゃるだろうかを考えてやってらっしゃったみたいで、
今はそれが良くわかります。

「純粋な気持ちに戻れるもの」
鎌谷|今現在、独立してから建築を設計していく中で、自身の卒業設計をどう捉えてらっしゃいますか。
大成|卒業設計では学校で設計してきた中でも、かなり純粋にやりたいことをどんどん突っ込んでいけた感覚がありますね。だから、この卒制を見ると素直に純粋な気持ちに戻れる。今回のインタビューをきっかけに久々にじっくり見返してみたのですが、この当時と今の自分を客観的に、今私は何を考えているのだろうということを、改めて見つめる事ができました。そういう意味では大事な作品ですね。
丸子|大成さんの中では、今なお卒制がご自身の設計の軸として位置づいているんですね。
大成|実際に建物を作ったことのない段階で作った最後の作品だから、そういう意味では、現在の自分との比較としてはかなり興味深いです。独立後に作った最初のポートフォリオには、時系列で新しいものから並べて、一番最後に卒業設計を載せてました。どこからスタートだっていうとやっぱり卒業設計からかなって思います。