vol.13 仙石亜紗子氏、橋村雄一氏

写真追加版


g86 London 第一弾はロンドンで建築を勉強する仙石亜沙子さん、橋村雄一さんのインタビューです。

今回は二人の日本での作品、ロンドンと東京の建築教育の違い等についてお話を伺いました。


profile

仙石亜紗子
1985年東京都出身
2008年 多摩美術大学環境デザイン学科卒業
現在、UCLバートレット、ディプロマコースに在籍
第31回卒業制作優秀作品展レモン賞受賞

橋村雄一
1984年生まれ大阪府出身
2008年 多摩美術大学環境デザイン学科卒業
現在、University of East London、ディプロマコースに在籍


interview内容 (以下敬称略)

澤田ーまず多摩美時代の作品について説明していただけますか。

橋村ーこの作品は多摩美の芸祭で毎年テキスタイル学科の三年生が主体でテキスタイル、ファッションショー、演劇、ダンスなんかを組み合わせたようなパフォーマンスを毎年やるのが伝統で、そのための舞台デザインを俺ら入れて、5、6人で一緒にやって。テキスタイルの人からの要望があんまり舞台が前にあって客席が後ろっていう向かい合う感じじゃなくて、もうちょっと入り交じったような、観客をもっと取り込んだような構成にして欲しいって言われました。地面を一段上げてそこに穴があってそこに観客が座るようなイメージからスタートして、そこから大きさなどを調整して曲線で穴を空けていったというところからこういう形がきまっていって、中央奥の半弧状の部分ではバンドが生演奏するステージ。客席には皆で作ったウレタンの座布団が引いてある。真ん中が少し隆起してるんだけど。。。

仙石ーそれはこのパフォーマンスは四個の感情を表現した四部構成になっていて、その中で華々しいシーンの時は何十人というパフォーマーが舞台の上に登るけど、静かな雰囲気のシーンでは三、四人しか舞台の上に立たないんだけど、そのわぁってパフォーマーが真ん中で重なり合った時に全員が観客席から見えるように段差が必要で。でも静かなシーンの時は平たい舞台の上に数人がぽつぽつと立っているような感じっていうテキスタイルの人からの要望があって。。

橋村ー最初はお立ち台みたいのを必要な時だけだすっていう案も出たんだけど、でも台を誰かが持ってくるなんて格好わるいってことで、なだらかな隆起をつくればいいんじゃないかということになって。そうすれば舞台の上も連続した地面だっていう感じに繋がるし、あと迫力も出る。皆客は地面に座っているから見上げることになって圧倒的なパフォーマンスになるんじゃないかと。

澤田ー取り囲んでる客席が舞台に食い込んでもいて、観客と演者の対の関係を崩してますね

橋村ーそうそう。テキスタイルの人が言ってたのは儚い夢のようなものを表現したい、観客のいる空間自体が日常とは違うパフォーマンスの場に変わるようなことをやりたいと言ってて。

澤田ー最終的にひとつの形態に落とさなければいけない中で五人グループでの設計というのはどうでしたか?。

橋村ー図面は結構俺が描いてて、週に何回かテキスタイルの人も含めてミーティングをやってそんときに図面とかの修正をしてたから、その段階では俺が描いてたけど。施工は皆でやって。

仙石ー全体的な形態は違う子がやって、この隆起のアイディアは私が出したり、皆でちょっとずつ収容人数とかからちょっとずらしてみたり、細かい構造とか橋村くんがやって。この構造で持つかどうかってのを実際作って上でジャンプとかもしてみて。

橋村ー1/1でこんなに人が乗るようなものを作った事が無いし、ここで飛んだり跳ねたりダンスとかするわけやから。

澤田ー橋村さんはパフォーマンスをされてたって伺ったんですが?

橋村ーえーとこの前の年にパフォーマーとして参加してて、その繋がりでこれを頼まれたんだけど、その経験もあったからどういうものが求められてるかは結構分ったかな。


「聴覚的空間」

澤田ーではそれぞれの作品を説明していただいていいですか。

仙石ーこれは内藤廣さんのちひろ美術館をつくり直すという課題で、場所も敷地もまったく同じで、求められる収容人数、プログラムも一緒でした。私は岩崎ちひろの本を読んで凄い感動してこの人凄い素敵だなぁと思って、この人のモットーが一枚の絵だけでは自分の作品は成り立たなくて、絵本になってページをめくる時の読んでる側の感情の起伏とか時間とか、ページを一枚一枚捲る動作とかを含めて、本になって自分の作品は初めて成り立つていうことを言っていて、私はそれを読んで凄い面白いなと思ったので、美術館は絵本みたに展示はできないけど、時間の流れとか、岩崎ちひろの求めてった一枚一枚の絵の意味とかをこう空間として表現できないかなっていうのがこの作品のコンセプトです。

そこで構造は金属の薄めの壁を折り曲げて、人が壁と壁の間をすり抜けていく事で、絵本のページを捲る感覚を味わえないかなと思ってエスキスをしました。基本的には展示空間と、そうじゃないカフェとかライブラリーとかショップとで大まかに二つのボックスに完全に別れていて、行きと帰りの通路が渡してあります。空間的に二つのボックスに分けることで、片方の展示空間では音が静かに反響して、片方はショップなどの賑やかな音が反響するっていうのが自分の中で凄い大事でした。

橋村ーなんで絵本から鉄板をすり抜けるっていうのが出てきたの?


仙石ー紙が捲った時に出来る曲線。こんな感じで(上画像)。人がスーっとその中に入っていくような。あと五個の展示空間が設定されていて、最初に入った展示空間からは次の空間が視界に入らないようにしたりとか、スロープで段差をつけていてその起伏と壁の起伏で次の展示空間が視界に現れたり消えたりっていうのを、最初から大きめの模型をつくってカメラで実験しながら作りました。

澤田ー鉄板の感じがリチャード・セラの彫刻みたいですね。卒制で盲人用の施設をやられてましたが、この作品もプログラムを分ける事で静かな空間と賑やかな空間に分けていたり、音っていうのは仙石さんのなかで重要なキーなんですか?

仙石ー結構、音を考えるのはなんでか分らないけど癖になってます笑。なんでだろう。。。視覚的には隣の空間が見えなくて閉ざされてるんだけど、音が反響して聴覚的な空間としては体育館みたいに大きなものとして成り立っているような空間が私は個人的に心地よくて。壁で視覚的には遮断されてても、音は繋がっているっているのが好き。

澤田ーSANAAのー

仙石ー梅林の家。

澤田ーもそういった空間ですよね。

仙石ーそう。中に入った事とかはないですけど。あと家具とかもなるべくこの壁と連続しているようになってます。


メビウスの輪/シームレスな空間」

仙石ー次のこの作品は伊東豊雄さんの課題で、UCバークレーにつくっている施設をそのまま多摩美図書館の場所に置き換えるっていう課題でした。この課題は楽しかったよね〜。中に入るのは常設展、企画展のスペース、大中小3つのシアター、あとカフェとかショップとか、オフィスも、あと学生がミュージアムとかシアターと交流したりするスタディルームとか。まぁミュージアムとシアターの複合施設です。

私が考えたのは多摩美には凄い大きなホールが何個もあったので、普通に座って映画を見るような施設はもう必要無いなと思って、もうちょっと自由な、昼寝とかできるような映画館があったら素敵だなと思ったのが始まりで。観客席がすり鉢状に凹んでいて、天井に大きなボールが浮かんでいて、そこに映像が映写されて、すり鉢状のところに観客がごろごろ寝転がりながらその映画を見るという笑。

橋村ーゆるいね〜笑

仙石ーうん、ゆるい笑。で、その三つのシアターの周りをミュージアムが取り巻いているっていう空間を考えました。凄く表現し難いんですけど、これも音と一緒で完全に空間を区切りたくなかったので、すり鉢状の空間は凄く暗いんだけど、その周りに壁を作らないで周りのミュージアムと繋がっていて、ミュージアムの展示用の壁とかで段々光が遮られていってシアター内は結果暗くなるような、光のグラデーションをつくりたかったんです。そういう具体的な空間が一番最初に浮かんで、そこから設計していきました。一番難しかったのが、敷地がそんなに広くなかったからそのシアターの周りにどう美術館を収めるかっていうのが凄い大変で、その時にエッシャーの階段が延々と繋がっているような空間が作れないかなと思って。こう延々にループするような。

澤田ーメビウスの輪のような。

仙石ーそう、ぐるぐるループすることでもの凄く広がりのある空間を作れないかなと考えて。美術館の層が階段とかエレベーターがなくて隆起してて、結局メビウスの輪状になって始まりの場所に行き着くような空間を考えました。個人的には一番楽しかった課題です。

澤田ー空間が連続的だけど外に出たり中に入り込んだりしていて、伊東さんのぐりんぐりんに近い空間なのかなと思ったんですが。

仙石ーそう、ぐりんぐりんを思い浮かべたたわけじゃないけれど、イメージとしてぐりんぐりんに近いものがありました。

橋村ー伊東さんにもそれは凄い言われてたね。

仙石ー伊東さんはこれを見てぐりんぐりんを作った時のことを思い出したらしくて、隆起する床の構造がぐりんぐりんの時あまりにも分厚くなってそれが凄い重々しくて、これを実際作るとなると同じ事が言える、もうちょっと軽くできないのかって言われました。一番最後に言われたのはあまりにもぶっ飛び過ぎてるから笑、もっと建築的に考えろと笑。

橋村ー建築らしさみたいなのがもっと必要なんじゃないのとか言われてたよね。あの人は既存の建築の形式とかを壊そうといてる人やけど、それでもやっぱり建築的な考え方っていうのはあって踏みとどまるところは踏みとどまらなきゃいけないってこと。

澤田ー建築的リアリティーみたいなことですか?

橋村ーうーん、それもあるし、実作をあれだけやって俺らが分らない建築のできることとできないことみたいなことを分ってるからあういう事を言ってたと思うんやけど。。。

仙石ーあまりにも無法地帯であると笑。

橋村ー建築的な解決法が合ったんじゃないの?と言ってた。特に屋根に関して。

仙石ーまだその解決策は見いだせずにいます笑。


「盲人の空間」

澤田ーでは卒制について説明していただいていいですか。

仙石ー卒制は目の見えない人のために施設を作りたいっていうのが、2年生ぐらいから思っていて。最初は個人住宅とかを皆に勧められたんですけど、もうちょっと公共施設みたいな社会的なことをやりたいなと思って。

橋村ー個人住宅だと住人が長く住んでそこに慣れさえすれば結構細かいデザインは関係なくなっちゃうじゃん。

澤田ーなるほど。

仙石ーさっき見せた二つの作品みたいに公共性があって、色んな人が行き来する場所の方が自分は好きで、作っててすごく楽しかったんです。高田馬場に盲人用の公共施設が一つの区画の中に6個ぐらいある場所があって、そこを訪れた時に街中に黄色い点字ブロックや音声信号器が至る交差点、至る敷地に張り巡らされていて、私にはそれが衝撃的で、なんだこの街はと思って。そこから施設の方や盲人の方にインタビューして、やっぱり目の見えない方は家から出て場所にたどり着くまで大変で、自転車とか車も危ない、だから高田の馬場みたいに点字ブロックとかが張り巡らされてないと、施設として成り立たないんだって事をまず教えて頂いて。点字図書館やリハビリセンターなどの5つか6つの施設のためだけに、街に盲人用のインフラが張りめぐされているんですが、でもそこに盲人の方が留まってリラックスしたり勉強したりする空間が全く無かったんです。点字図書館はほとんどビデオレンタルで全てネット注文を受けての郵送で成り立っていて、半分は倉庫、半分は展示図書を作る工場みたいになってます。普通の新刊で出てる本をどれだけのスピード、どれだけの量で対応して点字化するかっていうことで工場が動いていて。そこに一切ソファがあってリラックスして本を読むみたいなスペースが無かったんですが、じゃぁ盲人の人にそういう空間って必要なのってなった時に、家にいてネットで成り立つなら危なくないしそれでいいじゃない、って凄く言われたんですけど私が実際盲人の方10人ぐらいにインタビューした時に、やっぱり皆外に出たいし、色んな人と交流を持てることに喜びを感じると言っていて、私は卒制で家の中だけじゃなくて人と人とが交流できるような場所をつくりたいなと思っていたので、じゃぁ高田馬場にそういう施設をつくろうと思いました。それでちょうどその区画の真ん中に公園があって誰にも使われていないような状態だったのでそこに建てようってことになって。

最初に考えたのは点字ブロックの代わりになるような、もっと自由に人が選択できるような記号を作れないかなと思いました。点字ブロックは歩けっていう記号と止まれっていう記号しかなくて、それに沿ってしか歩けないしそこから三歩でも離れるとそこには何も分らなくなるなってしまうんですけど、それを触れた時にそこがどういう場所かっていうのが分ったり、自由にどう歩くか選択できるような記号を作りたいと思い、床を波紋状に起伏させるっていう記号をデザインしました。物の中心から離れるほど段々波紋の感覚が大きくなっていくので波紋のどこかに白杖や足で触れた時にその物からどれくらい離れてるかを分るのがひとつの特徴で。あと円弧状に広がっているので波紋に沿って歩けば物にぶつからずにその周りをくるくる回れるっていうもので、これはインタビューした時に物に白杖で触らなければその物が避けられないのが凄いストレスだと聞いてこれはいいなと思って。足の裏の感覚で物の中心と外側の方向がちゃんと分るかを実際に人の体重に耐えられるようにFRPで一分の一で作って実際ごろごろ運んでって盲人の方に使ってもらって、自分でも目をつぶって棒を持って実験してみたりしました。

橋村ー中心にある物って何なの?

仙石ー家具とか壁とか生活していく上で障害となるもの。あとなるべく家具とかも移動式じゃなくて常設されるようなものになるべくしました。あと音で何かできないかなと考えて、盲人施設で視覚的にあんまり変化を作っても意味がないので壁はなるべく作らずに屋根をドーム状に起伏させて点在させることで、音で空間の識別をして貰おうと思いました。ドームの大きさとか床の素材とかで違う質を持つ空間が作れないかなと。動線的に区切るんじゃなくて、音と材質で区切ろうとしたんです。その移動のツールとして波紋があるんです。

澤田ー目が見える人だと空間の認識にあまり違いが出ないような場合でも、盲人の方には材質によって空間の質がそれ以上に変わったりするものなのですか?

仙石ーその違いをしっかり定義するのは多分難しいと思うけど。。それぞれ見えるか見えないかどちらかの経験しかないから、と思うんですけど。。うーん。

橋村ー感覚が敏感にはなったりするんじゃないかな、やっぱり。

澤田ー自分で実験したり、盲人の方にインタビューしてみてどうでした?

仙石ーインタビューしてみて、彼らも材質について毎回分ってるわけじゃないので凄い曖昧なんですけど、例えば絨毯の部屋とタイルの部屋とどっちが心地いいかとか、天井の高さとかについても聞いたんですけど、横の広がりよりも高さの広がりの方が凄く心地よさに反映したりだとか、基本的に絨毯の部屋は音が反射しないから凄く閉鎖感が強いってのは聞きました。

澤田ーそれは面白いですね。僕は音の閉鎖感とかってあんまり普段意識しないですけど、新宿のICCのカールステン・ニコライの作品で無響室の中でホワイトノイズみたいなのをすごい音量で流してる部屋の中に入った時に、普段感じた事ないもの凄い閉鎖感というか空気の詰まった感覚を覚えたんですがそういう感覚が盲人の方だともっと普段から敏感に感じられたりするんですかね。

仙石ー私もその部屋入った!そう。私は多分そういう音の閉鎖感ってのを普通の人より強く感じて。すごく共感したのは、盲人の方がいつも窓を開けて窓の側に座っていたいといっていて、私もいっつも窓は開けてて。凄い音の広がりとか、風の吹き込んでくるとかがないとすごく自分が心地悪かったりする。


「移動空間から考える/スチボ文化」

澤田ーでは橋村さんの卒制での作品についてお話伺ってもいいですか。

橋村ーもう結構忘れたなー、、笑。当時人が歩くような場所に凄く興味があって。人が動くっていう事に対してなんか惹かれてて、何かのために留まっている場所っていうよりも、何かのために移動しているっていう空間に興味があって。でも建築って大体何か目的があって空間を作ると思うんやけど。でもその間を結んでる空間てのはそこまで重要じゃないようなものとして扱われているような気がして。だから逆にその移動するために空間からスタートしたものをつくろうと思ったのが始まりかな。なんで移動する空間に興味があったかっていうと、哲学的なんやけど自己同一性というか、結局自分が移動して自分がその場所にいてっていう常に自分がっていう一元的なものみたいなもの、そういう色んな人のその一元的なものが絡まり合う場所っていうイメージがあって。一人一本の線、糸が絡まり合ってるような場所を作ろうと思って作りました。

澤田ー街路みたいなテクスチャーのボリュームを重ねたコンセプトモデルが興味深いですね。ヴォイドの方を逆にスタイロで作ってる。

橋村ー反転したやつね。水平方向の街路が縦横無尽に走っているものを積み上げていって、かみ合った部分は吹き抜けになってて自分が歩いてると他の人の動きも見えるし、歩いてて景色がどんどん変わる様子が単純に楽しいかなと。移動することが楽しいってのは、ひとつの日常の楽しさかなって。カフェとか住居とかをよくするのと同時に、そういう機能を繋ぐ移動空間の豊かさも大事でしょうと思って。

澤田ー写真でしか見てないですけど、模型がすごい硬質でソリッドな質感だなと思ったんですが。橋村さんのUELも校風としてマテリアルを重視するっていうのがあって、何かそういう素材とかに拘りがあるのかなと思ったんですが。

橋村ーそれは特にコンセプトとは関係ないけど、好みかな。拘り、、、はアンチスチレンボード笑。さっきいったコンセプトってすごい図式的な考え方だと思うんやけど、OMAとかSANAAみたいな。コンセプトからダイアグラム作ってそれを建築にしたような。でもそれだけじゃ建築ってダメだと思っていて。やっぱりいくら図式的に新しくても、あとの半分として身体感覚に直接関わる素材とかもやっぱり大事な要素だと思ってる。そういうポリシーを反映させたのかな。図式だけで終わりたくなくて、物としてのクオリティでも何か言えるようなものを作りたかった。

仙石ー模型じゃなくてひとつのアート作品みたいにしたかったって言ってたよね。

橋村ー結局学生の俺らって実作とかまだ作れないから、模型でしか語れないから模型だけでも完成したようなものを作りたかって、何かを模したものじゃなくて、ものそれ自体で力があるようなものを作りたかった。それはUELを選んだ理由にもなってると思う。

澤田ー模型って日本だとスチボ文化があって、

橋村ー便利だからね笑

澤田ーこっちだと3Dプリンティングとかレイザーカットのレイヤーモデルだったりその元として3DCGがすごいじゃないですか。それってでも単純にどっちが進んでるとかそういう問題じゃなくて、それぞれの建築の価値観を反映していたり、又はそういう枠組みができてしまっててそれに建築が左右されているとも言えると思うんですがどうですか?

橋村ースチボね、、。特にSANAAなんかはスチボがなかったらあういう建築はなかったと思う。あの人達は白模型を大量にそれこそひとつのプロジェクトに何百個も作るようなことをするから、色も、、、まぁは色はいいや、スピーディーで作りやすいものっていうのでスチボは大事だったのかなとは思う、あういうSANAA的な建築が生まれる上で。


「建築とアートの距離」

澤田ーなるほど。ではなぜロンドンに来て今の学校に行こうと思ったのか聞かせてください。

橋村ー多分、物質とか光とか空間の根源的なクオリティーってのをまだUELは信じてて、前衛的なものばっかりに目を向けないで過去のものを参照したりすることも大事にしてるし。新しいものを生み出すのも大切やけど、人間てそんなに古代から変わってないしそういうものを無視したらいけないと思う。古風といったら古風やけど、空間の純粋な部分をUELは未だに大事にしてるんじゃないかなと思って。石膏とかモルタルとかの模型を作ったりもするんだけど、同じボリュームの模型をスチボでつくるのと石膏でつくるのでは同じ白でもやっぱり違う。どう違うか分らんけど人間てそういう違いを認識する能力があって、そういうところに焦点を当てたいなと。そういう感覚を忘れないでいたいなと思う。バートレットは?

仙石ーまず、日本であんまりピンと来る学校が見つけられなかった笑。うーん、でもそれより先にアートと街の距離がすごい近い。日本だと感じられないけど、美術館がフリーだったりロンドンだとそういうアートとかがすごい近く感じられる。そういう文化の圧倒的な違いにすごく惹かれて。バートレットにきた理由は、とにかく学生の作品がすごく面白くて感動的だった笑。もうちょっと日本にいる時は、空間の構成の質に皆が焦点をあてていて、だからすごいミニマルだったり。そういう考え方もすごい好きだったけど日本にいたらそれ以外に焦点を当てられない気がして。上手く言えないけど、、え、バートレットってどうなの笑?

澤田ー笑。

橋村ーあんま上手く言えないけどバートレットって空間が無いよね。空間の質が無いというか。そこからスタートはしてないっていうイメージがある。

仙石ーそう。日本とはまた全然違って。でもそういう空間については自分の中で日本で済んでるなと実感していて。感覚的に身に付いたかなって。それが嫌なわけじゃなくて、それプラスで違う観点でバートレットでは日本で学べないものが学べる気がして。

橋村ー何なんやろね。バートレットって。空間じゃなくて。。。

仙石ーあと洋服から建築を考えたりもしていて、身につけるものを建築であるって言い切って洋服をデザインしたりだとか。その考え方が自分がすごいやりたいと思うことに近くて。建築の設計も好きだけど。建築じゃないものを建築として見るような。インスタレーションとかインテリアデザインとか建築の混ざり合ったところから空間を考えることをすごく私はしたくて。それをしたいって思った時に日本の大学よりバートレットの方がすごいそれができる気がした。それだ笑!


「ペーパーアーキテクトとリアリティ/建築の飛翔力」

澤田ー笑。ロンドンの建築教育ってよくも悪くもアーキグラムの影響って大きいですよね。バートレットもピーター・クックが盛り上げて今みたいな学校になったし、AAはもちろんアーキグラムの発祥てのもありますけどデイビッド・グリーンが今でも教えてたり、ピーター・クックもレクチャーでよく来る。ロンドンて街自体はすごい保守的で、現代建築で比べたら日本の方がよっぽど多いけど、アカデミックな部分ではそういうアンビルド文化とかペーパーアーキテクトの文化がリアルとはちょっとかけ離れた状態でどんどん進んでる傾向がありますよね。そういうことについてどう思いますか?日本のスチボ文化って、スチボで作るってことはある程度建築的にリアリティーがありますよね、そこに日本の建築界のロンドンとは違う姿勢があるように思えるんですけど。

橋村ーそうだね、日本てあんまりペーパーアーキテクトっていないよね。

澤田ー逆にロンドンにはそういうものが許容される文化があるとも言えるかもしれないですけど、ロンドンで今実作建てて注目されてるのってそういう前衛的とは違うアジェイみたいな建築家だったりするじゃないですか。逆にバートレットとかAAでた人の中で、建築じゃなくてハリウッドとかゲーム会社、又は映像作家みたいなバーチャルなとこで活躍してたりする人が結構いますよね。そういう現実とちょっと離れたようなロンドンの建築教育についてどう思いますか?

仙石ーうーん、こっちにきてすごい頭痛がしたのが、アートと建築の境界線を定義しろ言われた時に、すごい国だなと思って。ディスカッションさせられたんだけど。すごいそういうこと求められない?日本てそこまで定義して分ける程、色んなものが繋がってない気がする。なんかそういうアートと建築がすごい近いっていうそういう所から来てる気がした。うまく言えないけど。。。私ははっきり言ってあんまりアーキグラム好きじゃなくて、やっぱり建築は都市の中で成り立っていて、完全にアートでないし、そうじゃない部分の方が大きい。私としてはただ額縁に入れられたアーキグラムのドローイングとかは建築じゃないってのが私の意見なんだけど。建築学科に行くっていうと「あぁ絵うまいんだ」とか言われて、アートと建築が融合して考えられてる気がする。それが原因な気がする。その文化の違い。私はドローイングを建築っていうようなことはしたくないけど、アートと建築が融合してることで、インスタレーションと建築の中間、そのグレーゾーンから何か面白いことが出来るような気が毎日してます。そういう考え方はすごく好き。

橋村ー俺はペーパーアーキテクトは否定しないし、面白いと思ってるけど。自分でそう成りたいかって言われると成りたくないけど笑。そういう分野としてあっても普通に面白いなと思ってみてるし。バートレットってペーパーアーキテクトやん。てかほとんど。それ見ててやりたいとは思わんけど、見てる分にはすんごい面白い。から何か俺の中で別枠なんかな、ペーパーアーキテクトって。勝手にやっといてみたいな笑。

澤田ー笑。

橋村ーでも間違いなく可能性を広げる、他に影響を与えるって意味ではすごい意義のあることだと思うけど。結局ザハとかだって、元はペーパーアーキテクトでも今は建ててるし。

仙石ーそれ面白いよね笑。ペーパーアーキテクトがどんどん現実化してくっていう笑。

橋村ーうーん。でもどう思う?ザハとか。

仙石ー私は好き。

澤田ー面白いとは思います。モバイルアートみたいなのが実際建っちゃうってのは凄い。

仙石ーそうそう、しかもクオリティが高いんだよやたらと笑。

橋村ーなんかなー、多分あの人らがやってることってポンって遠くに何か新しいことをやって、それに現実がそっちに少しだけ引き寄せられるみたいなことじゃないかな。ファッションとかでショーに出てくる服とかってぶっ飛んでて普段こんなんで街歩けないやんみたいなとこあるけど、でも多分それをやることによってファッションのブランドの姿勢とかを示してる。でもファッションはショーでやれるからいいけど、建築でそれを皆がやるとちょっと違うんじゃないかなと思う。建築ってある程度永続性があるし、自分の金じゃなくてクライアントがいて建つわけやから、そういう意味でちょっと罪悪感もあるかな。

仙石ーペーパーアーキテクトはアートだと思う?

橋村ーアートじゃない?分らん、アートって言われたら何でもアートな気がする笑。

仙石ーAAってあんまりペーパーアーキテクトじゃないよね。

澤田ーそういうとこも結構あると思いますけど笑。今のAAは構造的なものが多いのかな。

仙石ーそう構造っぽい。でも普通の構造じゃないよね笑。

橋村ー俺がやりたいのは飛躍しすぎた新しいものをやりたいんじゃないんやろなってのは思ってて。ちょっとだけ、今あるものから外側に押し広げられるようなものが作れたらなって思う。バートレットとかAAは飛ばすねんね、きっと。

仙石ー飛ぶねー笑。

橋村ー飛んで、何年後かに現実がちょっと追いつく。

澤田ー僕は前衛っていう言葉のアーキタイプというか、イメージってあんま昔と変わってないんじゃないかなと思ってて。新しいと前衛ってちょっと違って、今何が新しいかって言われた時にUELの素材を追い求める姿勢とかヘルツォーグとかアジェイみたいな建築って前衛とは言えないと思うけど、今新しいからこそ評価されてるんじゃないかなとも思うんですが。

橋村ーそうねぇ。でも同時にザハとかの有機的な建築とか伊東さんのやってることも新しいと言えると思うけどね。


「異なる価値観と対話する」

澤田ー僕は参加してないんですが、アーキサミットはどうでした?

仙石ー自分はまだまだ勉強が足りないなと笑。多摩美時代は言葉でこう何かの意味とか理由とかを主張したり、時代の流れの中でどういう場所に自分がいるかとか、考える場を自分でも作らなかったし、周りにもなかったから、すごく他の大学との違いを感じて。とりあえずあんまり言う事無いよねってなって、感覚的な方向から攻めてくんだってことをひたすらプレゼンしたんですけど、終わったあとに色んな大学の人がすごく興味を持ってくれて、私の作品に色々思ってくれたりして。自分達とは全然違うことを考えてる大学生達と交流できて。最初私は恥ずかしい!って感じだったんですけど、四年間感じてきた事とかを話して向こうも興味を持ってくれてってのが嬉しかったです。すごくいいなと思って。だからまた誘って下さい笑。

澤田ーはい笑。橋村さんが参加したぺちゃくちゃナイトはどうでした?

仙石ー緊張しましたか笑?

橋村ーえ、ぺちゃくちゃナイト笑?緊張はした。でも半分以上外人やったからあんま分ってなかったんじゃないかな笑。イベント自体は凄いいいと思う。誰でも参加できるし。俺が出た時のことはよく分らんけど。そんな反響あったわけでもないし。一つの枠に三人で出たからすごい軽いプレゼンだったし。どうだったけな。。

澤田ー学生がそういう議論の場を作っていくていう事についてはー

仙石ーすごいいいと思います。

澤田ー違う人種とか国の人と一緒に授業を受けてみてどうですか?

仙石ーそれはめちゃめちゃ楽しいです。文化がまず違いすぎて、英語でげらげら馬鹿な話とかたまに真面目な人生相談とかするだけで私は本当に楽しいです笑。すごい感動を思えた笑。どんなに近い国とかでも価値観も全然違うし。

橋村ー外に出ると日本人の特徴がよく分るよね。いいところも悪いところも。

仙石ー私は日本人らしくないらしい笑。

澤田ー卒業したらベースはどこに。

橋村ー日本かな。

澤田ー東京ですか。

橋村ーやろね。結局日本人だし笑。外人として暮らすのってやっぱりつらいし、そこまでしてここに住むこともないかなと。ネガティブかな笑。

仙石ー大丈夫か、お前ー笑
澤田ーでもロンドンて外国人が日本で暮らすよりよっぽど暮らしやすい街ですよね。

橋村ーそれはそうだね。

澤田ー外国人がいて当たり前とうか。ロンドンに事務所持ってる有名な建築家でも外国人は多いじゃないですか。レムがサーペンタインのパビリオンでやったインタビューマラソンの中で、ロン・アラッドだったかがロンドンはアウトサイダーでい続けさせてくれる街だみたいな事を言ってて、なるほどって思ったんですよ。

橋村ーペーパーアーキテクトも多いし。

仙石ーアウトサイダーでいることがつらい人も楽な人もいると思って、私がどちらかは分らないけど。けどとりあえずこっちで働きたいなと思ってて、しばらく働き終わった時点で考える事かなって思う。多分でも日本は好きだし。。日本は楽笑。ただ日本にいると日本人としか喋らなかったし、22年間で日本人だけのすごい保守的な考え方が浸透してたんだなってのをここで感じたから、ここで学べることはすごいいっぱいあると思う。

澤田ーでは東京とロンドンで都市として何が違うと感じましたか。

仙石ーとにかく東京はロンドンよりもすごい広い、繁華街と繁華街の間に住宅街がある。でもロンドンは繁華街の隣に繁華街がある笑。東京の有名な街を抽出して円のなかにぼんって入れた感じ。東京にいた時はロンドンて東京に近いなと思ってたけど、住んでみたら全然違った。すごく忙しいし。

橋村ーでも似てると思うけどね。ヨーロッパの中で見たら一番東京に近い。

澤田ーたしかに。でもロンドンと東京だと距離感覚が全然違いますよね。大体バスで事足りるし、下手すれば歩いてどこでも行ける。

橋村ー大きさはすごい過ごしやすい、住みやすい街やと思う。

仙石ー面白いよね、ロンドンて。東京にいると、例えば秋葉原から渋谷に行くってなるとあぁ遠いって思ってたけど。

橋村ーまぁ忙しい街やね。

仙石ー本当に。あとロンドンの方が親切だよー笑。だって店員の人とか街の人が話しかけてくれる。

澤田ーそれ女の子だからですよ笑。

橋村ーないないない、目も合わしてくれないもん笑。

仙石ーロンドンは得だね、女の子は笑。

澤田ー笑。では今日はこんなところで。どうもありがとうございました。