最後の講評会を終えて


昨日の記事でも書きましたが、一昨日レモン展の講評会がありました。それが結果的に最後の講評会。そして、7月にある東工大の卒制展が最後の展覧会で卒制から完全に離れるのでこれから自身の作品に対して色々振り返る時間をとっていこうと思っている。

そのレモン展で審査員をされた藤村さんが自身の日記でレモン展について述べている。藤村さんは審査員という立場に甘んじることなく、それさえも批判的にとらえて、自分なりの評価軸をもって審査してくれた。それが誠に明快で、審査されるこちら側としても評価に納得できる。その日記の中で僕の作品についても言及されていたのでここで引用させてもらう。


"形がデーハーな東工大の鎌谷潤さんの作品は図書アーカイブの機能を再構成してイメージを与えたもの。スケッチは圧倒的ではあるが、示されている「設計の意味」を分析すると、提案としては少々物足りないと感じた。アーカイビングという着目点とアルファベット+時系列という整理は明解だとして、その図式を単純に表象しただけだとしたら、それって下水処理場をドラマチックに描いたことと何も変わらないじゃないかと聞くと、答えは出て来なかった。もちろん、並の4年生よりは知識が豊富で、頭のいい彼のことだから、僕の質問の意味はもちろんわかっているし、問題を冷静に把握しているはずだ。"


ここで出てくる”下水処理場問題”は僕の中でも、設計段階から悩んでいたことだった。今回の僕の作品は、まず書物一冊一冊の配置から設計しようと配架のシステムを構築し、その単純な生成ルールで、書物の物理量に応じた複雑な建築を生成させることを主題として取り組んでいた。(辞書のアルファベット毎のページ数の違いが小口のインデックスに直接的に表れていることにヒントを得て)。つまり建築では無く、生成プロセスの設計だ。その意図する所は、急速な情報化の流れの中で、非場所的に、非時間的に物事が生成されていく流れの中で、あえて書物という固定化した情報の塊に特化した純粋な物質空間を表象させることが、重要なんじゃないかと考えたわけである。が、それはかなり抽象的で、象徴性を表象させることでしかない。それが具体的にどう社会にコミットし、どう位置づいていくかについての言及からは常に逃げてきたのである。それを「ドラマチックな下水処理場」と比較して質問され、的確に答えられなかったことで、改めて自分の作品の弱さを感じた。長谷川さんも講評会の際に、敷地を具体的に選定して、この建築がその周辺の環境とどう作用されるかを見てみたいとおっしゃっていた。その部分を切り落とすことで濃密な作品ができたことには違いないわけだが、それが致命的でもあった。


もう一つ藤村さんのキレキレコメント
”ただ、審査員の眼力ってこんなもんだろ、と馬鹿にされているとすら感じるほどケレン味たっぷりなプレゼはなかなか役者ではあると思う。審査員として、こういうのに単純に引っかかってはいけない。”


完全に読まれている笑。今まで参加したいくつかの講評会で、上の世代には若干アイロニカルな印象を与えると好印象になると気づいた。だから、レモン展では三大学の講評会で使用した物語調に語ることを前提とした原稿を、そのまま肩の力を抜ききって棒読みで読んでみた笑。藤村さんには変化球は効かない笑。


藤村さんの日記でも述べられているが、佐伯さんと石黒さんの作品は、思わずはっとした。両者ともとても惹かれるいい作品だった。この二つぐらい惹かれた作品は今年の卒制展では目にすることが無かったので、とても嬉しかった。
ただ講評会前では両者とも注目していなかった。それはかなりの量の模型と図面が並べられる展覧会では、やはり最初にかたちの面白さに目がいってしまう。そうなると、ただの図工展にしか見えなくなってしまう。おそらく解説を聞いたら面白いと思う作品がまだまだあるのだろう。多分そのあり方を変えないといつまでたっても、これから卒制する人は形の面白さに執着してしまうのかもしれないとも思ったりもする。是非とも、後輩には佐伯さん、石黒さんのような優れた作品のその深層にある意図を十分汲み取って自身の設計に生かしてほしいと思う。それは自分にも言い聞かしているのだけれど。


7月に東工大卒業設計展覧会が行われる。それが最後の卒制イベント。
そこで、それぞれの作品の解説と、東工大OBOGの方々へのインタビューを収録したフリーペーパーを配布しようと考えている。

その自身の作品解説で僕は、半分解説し、半分自分の作品を徹底的に批判しようと思っている。そこから浮き彫りになった課題を、読む人に卒制のあり方について考えるきっかけになればいいなと思っている。

あと、7月4日の土曜日にフリーペーパーに収録するインタビュイー(坂本一成、金箱温春、高橋晶子、大成優子、吉村英孝、藤村龍至(敬省略))の方々をお招きして、卒制についてのディスカッションをします。是非、建築学生のみなさんには来てほしい。これから卒制をする人には、その取り組み方について色々貴重な話が聴けると思う。卒制を経験した人には、今一度自身の卒制を振り返られるいい機会だと思う。人生一度の卒業設計。自分の思考を、イメージを最大限表現できる場。この機会を無駄にしないためにも、是非このイベントに来て、得るものを十分得て次に繋げてほしいと思う。

詳細はhttp://d.hatena.ne.jp/g86/20090606