vol.9 株式会社goods代表取締役 中村雄一氏

g862008-01-10


今回は株式会社goods代表取締役の中村雄一さんのインタビューです。
「ファミマ!!」など中村さんが手がけたプロジェクトを通して、ハードとソフトのデザインの関係について興味深いお話をお聴きすることができました。

profile

1972年生まれ
1998年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1998年 設計事務所勤務
1999年〜2005年 株式会社北山創造研究所
2005年4月 株式会社goods設立

商環境を中心とした、コンセプト構築・MD計画立案。
プロジェクトディレクションからデザイン業務全般。


interview内容


「goods.inc/総合力」
g86―good.incでの中村さんのお仕事の内容を伺いたいのですが。
中村―僕の仕事は純粋な設計業務はほとんど無いんです。基本的には商業にからむお店だったり、ホテルやオフィスとかそういうものが多いですね。どういう仕事かっていうと、例えばある企業が土地を持っていて、ここをどうしたらいいかっていうスタートからお付き合いして、ここにはどういう用途が街の中で適しているのかということをマーケット調査して、それをした段階でそこに最も適した機能を決めて、それで決まったら、建築はこういう形にして、中に入れる店はこういう業態にしてとか決定して、それが実際にお金としてはどういう投資でどういったマーケットなのかということを分析して、商業だったら、店の運営の仕組みとか、販促の仕組みとか、そういう風に基本的にはトータルに最初から継続して関わっていきます。僕の事務所は二人しかいないんですけど、IRIKAWA&partnersといってプロデュースから運営まで全てを手がける会社で一人のメンバーとしても仕事をしているんです。そこでは、設計担当の人と、オペレーションを考える人と、商品を考える人とか、みんな一緒のチームになってやっていて、僕のお客さんは企業の方が多いので、企業の方にはやっぱり設計、グラフィックなどをばらばらに頼んで、ばらばらに考えていくのはなかなか難しいことなので、それを僕らが代わりに全部まとめて全体を同じ方向性に持っていくようなことをしています。
g86―かなり総合的ですね。
中村氏―その中にはフードデザイナーの方とかもいたりします。
鎌谷―面白いですね。フードデザイナーと建築家が同じ立場で仕事をしているというのがすごく興味深い。
中村氏―飲食店とかの場合だと、全体をマネジメントする人だったり、建築家だったり、商品を担当する人だったりとか、様々な人が必要になってくるじゃないですか。そうなるとコンセンサスをとりながらやるということは非常に重要なことで、そういうのはどんどん繋がっていくべきだと思いますね。同じことをやるにも違う分野の方と協動していかないといけないから、そういう部分の知識を共有することはやっぱり強みになるんですよ。海外なんかでは多いんじゃないかな。
鎌谷―レム・コールハースも所員に大学の経営学部でMBAを取らせたり、そこから引き抜いたりとか、そういう建築以外のマーケティングやオペレーションの知識を所内全体で共有させて、そこからデザインしていくというようなシステムを取っていたりしますね。
中村氏―マンションの一室で図面を描いている人が考えることと、ソニー本社ビルのような100m×50mのオフィスの人が考えることとは全く違う次元の話だし、そういう所で働いている経験があるか無いかで全然変わってくるんじゃないかなと思いますね。だからアトリエ系にしても、ずっとアトリエだけで働くっていうのは、本当は違うような気がしますね。価値観という意味でもそうだけど、そういった総合力みたいなものはこれから先ものすごく重要になってくると思います。


「『ファミマ!!』/ソフト≒ハード」
g86―中村さんが以前在籍した会社で手がけた「ファミマ!!」のプロジェクトについてお話していただけますか。
中村氏―「ファミマ!!」のことについてお話しますと、日本の中では、コンビニはほぼ出尽くしたんですよ。それで出店する所が無くなってきてて、これからどうしようってなった時に、オフィスビル、ホテルの中とか、ある既存の建物の中に入って売り上げを伸ばそうと。でもコンビニって照明は蛍光灯で、什器は安っぽくて、商品も買いたくて買うんじゃなくて、しょうがないからコンビニで買うようなモノばかりで、だからそういうお店がホテルとかにそのまま入ったりしてると嫌じゃないですか。笑 そういう人の種類がだいたい特定できるオフィスやホテルに入れるときは、商品や内装外装デザインもそういう人のニーズに特化したものにするべきだという提案を持ちかけたんです。それで、マーケットの調査、他の業界での参考例、立地の条件などを徹底的に調査して、そこからの条件を汲み取って、デザインして「ファミマ!!」を作り上げていったわけです。
g86―この「ファミマ!!」というロゴがすごく特徴的ですね。
中村氏―店だけ綺麗で以前のロゴデザインのままだと、結局そのイメージを引きずるじゃないですか。だからそういうのをやめて全く新しいものを作って、お客さんからお店を見るイメージも変えてあげましょうと。具体的なロゴのデザインにしても、単純にかっこいいかっこ悪いじゃなくて、他の業態と色なりを比較してみて、一番目立つ色はどんなものかということを考えたんです。このロゴはカタカナなんですけど、コンビニって英語表記がすごい多いですよね。だからお客さんが引っかかるゾーンはここじゃないのかと。あと長い文字はぱっと見て覚えずらいし、言いづらいじゃないですか。だから4、5文字に抑えて「ファミマ!!」というロゴができたんです。
山道―(徹底的に分析された調査資料を見て)すごい分析ですね。
鎌谷―これは一人でまとめあげられたんですか。
中村氏―これは基本的には一人ですが、各パートは様々な人が関わっています。
g86―本当徹底されてますね。
中村氏―大勢の人が関わるプロジェクトになるじゃないですか、企業とだったり。その場合に、もし良いアイデアがあったとしても、それだけだとやっぱり共有できないんですよね。目に見える理屈がついてないと説明できないんですよ。
山道―雰囲気だけで共有できるというのはアトリエだけだと思うんですよ。そのやり方だと住宅スケールぐらいが限界で、こういったもう少し規模の大きいものになると途端に太刀打ちできなくなりますよね。
中村氏―ある程度色んな人達の合意を取り付けながら進めていかないといけなくて、デザインをした絵だけを見せても、それをすることの意義なり理屈なりを説明しないと話はなかなか進まないんですよね。それは色んな人達と価値観を共有する唯一の手段なんじゃないかなと思います。形式知を確実に共有するということなのかもしれない。

あと、お店って色んな要素があって、BGM、サイン、スタッフ、商品のパッケージとか、それには視覚だったり触覚だったり聴覚に訴えるものがあって、特性がそれぞれ違うじゃないですか。そういうものをちゃんと優先順位をつけて考えていかなければいけないんです。
実際はハコよりも商品とかサインだったりインテリアの方が目にしている時間って長いじゃないですか。
g86―そうですね。
中村氏―少し休む時の椅子の感触だったりとか、人にとってはそっちのほうが重要なんじゃないかなと。だから細かい部分をきちっとデザインしていくことでお客さんにもより心地よさを提供できるんじゃないかと思いますね。建物の設計も細かいことはいっぱいあるけど、こういう小さいモノだからといって短時間で終われる仕事では無い訳なんですね。素材や印刷物、什器から結構細かく色々あって、建築作るのもこういうことを作っていくのも全部一緒なんですよ。考える事自体は。
もともと僕が「ファミマ!!」のようなお店を作ったもう一つの理由として、デザインはお金を出して手に入れるようなものという気がしていて、けど日常的に使うもののデザインレベルが上がる方が、世の中の生活にとっては本当はいいはずで、実際は六本木ヒルズだったり表参道だったりお金を持っている人がいるところだけがデザインレベルが高い状況じゃないですか。そうじゃなくて、日常生活の文化レベルを底上げしていくようなそういう部分のデザインの力が関わっていった方がずっといいんじゃないかなとずっと思っていまして、こういうお店の形態を目指したんです。
g86―なるほど。


「学生時代/作る側にとっての価値観」
山道―中村さんも建築学科を卒業されているということなので、その頃のお話を伺いたいのですが。
中村氏―僕が学生の時に一番思ったのは、教授なり建築家なりそういった人たちが考えていることに対して実際に使う人たちは全然そんなこと思っても考えてもいないんじゃないかということですね。収まりが綺麗であるとかそういうことは、住宅を除いてショップにしても、公共施設にしても、実際にそれを利用する人はそんな所を見ていなくて、飾ってある絵を見てたり、商品を見てたり、そこで会話したりとか、そういうことが一番重要で、その為のハコじゃないですか。なのにハコの美しさだとか、作る側にとっての価値観で全てが決まるということに対して、そんなのに意味があるのかと学生時代は常に思っていましたね。
鎌谷―やはり僕も今設計をしていて、ある特定の教授の是非で全てが決まってしまうその環境というのが実際は非常に危険な空気なんじゃないかなと常日頃から感じていますね。
中村氏―そうですよね。それに建築というのは出来上がった瞬間が完成ではないじゃないですか。出来上がってから10年20年そこで営まれるまでのプロジェクトとして考えるべきなのに、出来上がるまでの美しさ、思想的な綺麗さばかりに執着しすぎている大学のそういった環境には嫌気がさしていました。(笑)全部内輪だけの何となくの価値観で序列が出来ていて、それがすごい不透明というか、内側の世界だけの価値観で成立していて、全然分野が違う人たちに対してうまく意思疎通ができていないっていうイメージがすごくありますね。
鎌谷―中村さんが学生の時からそういう空気はあったんですか。
中村氏―ずっとずっと。


「東京/街と文化の形成」
山道―中村さんが東京で長年生活されてきて、東京の変遷というか、東京についてどう思われるかということについてお伺いしたいんですが。例えば最近だと、ミッドタウンとか六本木ヒルズだとかについてどう思われますか。
中村氏―六本木ヒルズ動線とかは複雑で使いずらい所もあるんだけれども、一つのまちとしてやっぱりヒルズの方が場所として人間的だなと感じるんですよ。個性も明確だし。それに比べてミッドタウンはどの建物も80点で揃えられているような感じで、全部個性が無いように思いますね。意思決定が複雑になっていたのが影響しているのかもしれないですけど。だから場所としての面白さは六本木ヒルズの方があり続けるような気がしますね。
ヒルズつながりでいうと表参道ヒルズとかどう思います(笑)
山道―体験としてはすごく面白いんですけど、コンテンツが問題だと思っていて、完全にウインドウショッピングになってますよね。おそらくほとんどの人にとっては買い物をする場所じゃないと思うんですよ。見てるとみんな歩いているだけで、コンテンツに個性が全く無いなと思いましたね。
中村氏―そうだよね。そうなると前の同潤会の時の方が良かったって思っちゃうよね。
山道―ギャラリーとかを入れれば面白いかなって思いますけど、今の状態だと完全にフラットですから。
中村氏―スロープの角度が表参道と一緒だとか言っているけど、そんな必要は無くて、そこに来ている人は絶対そんなことは感じないし、もっと人の視点で分析していけば絶対違うより良い解答が出たと思うよ。そのあたりの建築家の論理は分からない。やっぱり人の「気持ち」を考えるっていうことはすごい当たり前なことのように思うけど、すごく重要なことだと僕は思いますね。

小林―最近六本木以外でも再開発地域がどんどん出来ていますよね。丸の内だったり汐留だったり。
中村氏―汐留のオフィスエリアでは僕は働きたくないなって思います(笑)あそこは土地を分割して売っただけだから、道路と共用部がうまく連続していなくて、街の機能として低層部をお店にするとか、そういうルールも大して無くて。。
鎌谷―西新宿のオフィスビル群に近い光景が出来ていますよね。
中村氏―そうそう。ああなってしまうと、昼間は人がいるけど夜は人気が無くなって怖いよね。そういう人の生活が息づかない場所になってしまってただのオフィスで事業をやるためだけの空間になっていて、工場と同じような場所になっているからすごく窮屈な感じを受けますね。
鎌谷―限り無く不動産屋の視点で建てられているなという印象をすごく受けます。
中村氏―そうだよね。そういう意味で言うと六本木ヒルズの方が、商業スペースもオフィススペースも居住スペースもあって、いろんな使われ方をあの場所で提供できているという点では豊かないい空間だなと思います。街ってやっぱり働くことと住むことと遊ぶことが組み合わさっているとそこが住み良い街になるんじゃないかなと思いますね。ニューヨークにダンボ地区というエリアがあって、そこはブルクッリン橋を渡った所にあって、治安が悪い地区だったんですね。それで、今はギャラリーやアトリエやクラブがあちこちにいっぱいあるんですけど、それはダンボ地区をおさえたディベロッパーが先にそういうアート活動をしている人たちを安く入れさせてあげたんですよ。そうすると色々な人が集まってきて、そこが人気の場所になってくるじゃないですか。そうなると治安も大分良くなってきて、不動産価値も上昇して、今では再開発も進んでまだ成長しているらしいです。
山道―なるほど文化から作っているんですね。石原都知事は逆に東京でクラブを禁止しようとしたりして、文化を規制しているんですけど、それとは全く逆の動きですね。
中村氏―やっぱり不動産が儲けようと思っても、本当はそういうダンボのようなやり方をした方が結局は潤うんですよね。人が集まる場所が文化がそこに形成されるからね。ららぽーととかそういう東京の街の再開発のやり方は、ハコをまず作ってその中に無理にコンテンツをいれるじゃないですか。そこには何の文化も生まれないと思うよ。ダンボ地区のやり方だとディベロッパー側にもメリットがあって、街の文化的なメリットがあって、それでうまく回る。そういうやり方が本来のまちづくりのあり方だと思います。


「今後の展望/流動的な関係性」
g86―中村さんの今後の展望をお聞かせ下さい。
中村氏―別に新しいことをするというよりか、今やっていることを継続してやっていきたいなと思っていますね。クライアントも喜んで、実際にユーザーも喜ぶっていう、そういう関係を常に保ちつつ色々なことをやっていきたいなと思いますね。別にそれが店舗じゃなくてもいいし、マンションでも、地域開発、商品開発とか何でもいいんですけど、そういう関係性で色々なことにチャレンジしていって継続していくということは一番重要なんじゃないかなと思いますね。
山道―今までお話を伺ってきて一番面白いなと思ったことは、一般の建築は竣工した瞬間しか報道されなくてそこで業務が終わりっていうイメージがあるんですけど、中村さんの場合は、運営であったりそういう竣工の後の部分までマネジメントしていて、その都度一個のプロジェクトも形を変えて進化していく印象を受けましたね。
中村氏―結局ソフトであってもハードなものであっても、モノの形が出来た段階が終わりじゃなくて、ずっと流動的に変容していくものじゃないですか。そこの中にいる人も変容していくし、全部が流動的に動いてるイメージで常に関係性を作っていくことが重要なことだと思いますね。生き物のように。
g86―今日は色々と有意義なお話を聴かして頂いてありがとうございました。とても楽しかったです。
中村氏―また今度飲みに行きましょう。笑